彼は日本人のお母さんを持つハーフのイギリス人。何でも4年間好きだった女の子を追いかけて日本にやってきたはいいけど、彼女とは結局結ばれず、決別したときに地震が起こり、やけ半分でボランティアに申し込み、南三陸に行ったのだそうだ。が、そこで壮絶な状況の中、「お前は外人で一番最初にボランティアに来たやつだ』と喜んでもらえ、みんなと一緒に力をあわせて働く中で、破れた恋の傷は癒え、仲間との絆が強く深まり、儲かれら被災者をほうって置けなくなってしまった。いったん東京に戻っても今までの生活がむなしく、またボランティアに戻ってきたら、彼の顔を覚えていてくれた人が、彼を見て抱きしめてまた切れくれたんかーと泣き出した。とうほくの人は大体まずシャイな人が多いし、自分の気持ちを余り表に出さない。特に男性は、それが彼を抱きしめて泣き出したのでロブのほうがびっくりしてしまったそうだ。が、彼はいろんなところでボランティアをして回リ、結局本吉が気に入って東京の自分のアパートを引き払いこっちに住むことに決めてしまったのだ。住むといっても私がお世話になってるテント村(金野さんがやっているサニーデイズというカフェというか憩いの場の芝生)二点とを立てて住民に加わったのだ。
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やさ男風のルックス、そのうえ東京でも高級ホテルでスーツ着てバーテンダーをして、もてもてだったと聞いたので、最初はかなり馬鹿にして、こんなところでダーティーワークできるのかしら、とか軽くこっちきちゃったけどみんなに世話になって迷惑かけるんじゃないのーと思ったりもしたが、性格はいたってマイルド、いつもニコニコしているので、まあ若いし、いい経験になるんじゃない?なんて思いながら傍観していた。
何日か一人で、地元の人に頼まれたことをしていると言って別行動を取っていた、みんなでいったい何やってるんだろうとは思っていたが、彼が「もし今日他に仕事ない人がいたら僕のほうで手伝ってくれれば仕事あるんだけど」と遠慮がちに言っても、こっちもやることはあるから、と行かなかった。彼は一人でどこかに行き、お昼に帰ってくるだけで毎日くたくたになって帰ってきていた。ある日私がコンピュ^ターの仕事を終えた後彼の仕事しているところを探しに行ったところ、津波が奥のほうまで届いたところのすみっこで一人何かを掘っていた。
行ってみるとかなりの瓦礫が彼の周りに掘り出されてあり、彼は彼の身長くらいの深さのある穴の中でシャベルを動かしていた。なんと、井戸だったところがすっかり瓦礫で埋まり、井戸が使えなくなっていたのを地元のおじいさんに、これをなんとかできないか、と聞かれて、いやだとも言えず請け負ったのだそうだ。
「最初来たばかりのころは何かやりましょうかって言っても、みんな『いやうちは大丈夫です』って遠慮して何も言ってくれなかったんだ、それがだんだん毎日一緒にいるうちに打ち解けてきてくれて、少しずついろんなことを頼んでくれるようになった、だからこの井戸を掘る起こす作業を頼まれたときも嬉しかったんだ、大変だけどさ』と一人きりで掘り出したものすごい瓦礫のやまに囲まれ、泥だらけになった顔をニコニコさせる。どうりで毎晩一人だけ8時前には疲れてテントに戻っていったわけだ。
『何で今までこんなことやってるって言わないの?教えてくれたらもっと早く手伝いにきたのに』というと照れ笑いしていたが、本当に一人でやるのはとっても大変な作業、水をくみ上げるポンプも一人では作動できないのでバケツで泥水をくみ上げては瓦礫を掘って外に投げ出していたらしい。さっそく私が一輪車で周りの瓦礫を遠くまで運ぶ作業を始めたが、その量は一人でよくここまでやったと感心するもの。
結局3日間フルに堀り続け、井戸の持ち主のおばあちゃんはチョコチョコ様子を見に来るたびにパンと飲み物を必ず持ってきた。そして本当に嬉しそうだった、「自衛隊もここまではやってくれないからねえ」というけれど確かにいまだに行方不明の人を探したり大きな瓦礫の処理がぜんぜん終わってないのに個人の井戸を掘り起こす余裕はないだろう。
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ほんとになんだか自分の息子のようにかわいくて仕方がなくなってしまった。いろいろ語り合ううちに彼がどうしようもないロマンチストで、本当に心の優しい青年であることもわかり、こういう青年が被災地で言葉もろくに通じないなかでみんなと心を通じ合わせていることをとても嬉しく思う。
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