2020-12-17

12月13日 アンドレア・モーラーのCPRコース 備忘録


前回のブログで書いたようにここのところ海での事故や怪我が多い。冬が始まったばかりだということもあるけれど、海の上で大怪我をした場合その場にいる人たちが素早く正しい応急処置をすることができるかできないかが本当に重要になることがよくわかった。そんな時タイムリーにCPRの講座があると聞き、その上講師はマウイの現役パラメディックであり、ペアヒのパイオニア(実際パドルで波に乗り始めた最初にブラジリアンの一人でトウインで乗った最初のレディースチームの一人、そしてスタンドアップで最初に乗った女性で一番大きな波に乗った女性(トウインで)でもある)カヌーやスタンドアップでもモロカイチャネルで一番優勝の数が多い人かもしれない。とにかくすごい経歴だけれどそれだけでなく、人間的に本当に尊敬できる女性でもある。

さてソーシャルディスタンスもあるのでそれほど人数は多くないはずだと聞いていたけど集まったのは半分くらいがビッグウエイブサーファーやプロウインドサーファー、そしてペアヒのセイフティークルー、そしてそれ以外が私や潜りで魚をつく人、学校のスポーツコーチ、そして助産婦さんや看護婦さんだった。みんなバックグラウンドは違うけれどそれぞれの現場で命について真剣に考え、できることをしっかり身につけておきたいと思っている気持ちがすごく伝わってきた。ほとんどの人がCPRコースの経験者、中には講師もいたけれど何度受けて儲けすぎということはなく、それが実際に必要な時にすぐ使えることにつながるとみんな言っていた。

自分が忘れないようにという意味でもここに大事なことをメモしておきたいと思う。基本的な内容はどこでも知ることができるので現場で役立つことなど私自身が聞いていて印象に残ったことをメインに描いておこうと思う。


以前CPRコースもAEDの使い方なども受けたことはあるけれど受け身の講義だったし、特にCPRは当時のやり方と今とでは随分違うようだった。

実は一度ハーバーで朝、自分の住んでた車の前で亡くなっていたホームレスの人を発見したことがあり、911で警察に電話したところ、CPRはできるか?と言われて、なんとなく知ってはいたものの、マウストウーマウスでもうすでにハエが口の中に入っているような状態の人にCPRを施す気持ちにどうしてもなれず、できませんと言ってしまったことがある、その罪悪感は今でものこっているのだが、(まあ息をしているとかまだ暖かいとかだったら話は違ったと思うけど)聞くところによると今は口移しでCPRはしないそうで、マウスガードのようなものでやったり、胸を刺激するだけなのだそうだ。アンドレアでさえも口をつけたことは今まで14年仕事してきて一度もないというのを聞いてちょっとホッとした。

話が横道に逸れてしまったけれど、今回は全員が何度もCPRの練習をモデルを使って実践し、そのときにいろんなシチュエーションを想定しながら、人が集まってうるさくなると大事な音や声が聞こえなくなるとか、誰かに手伝ってもらうとき、誰か、というのではなく、あなた、と指差してしっかり名指しで指示すること、911に電話するのも誰かがやってくれるだろうと思って誰もやってなかったり、反対に大勢がいっぺんに電話すると混乱するのであなた(と指差して)がやってと指示したりすることが大事だと言っていた。

またCPRで胸を押すのもかなりの力が必要で、私が思い切りやっても半分くらいが力や押す場所がずれていたりで、赤いランプがついていた(正しい押し方をすると青いランプが点灯する仕組み)そして正しく押すと男の人でも疲れるので人が多い時は交代でやったほうがいいのだが、これも続けてやらないといいがないので交代するときに時間がかからないよう、次の10で交代して、と言い、交代する人はすぐに変われるよと手の位置を近づけてスタンバイしておくといいと教えてくれた。立ち位置、誰がどこに立って何をやるかなども詳しく教えてくれたことで混乱が起きにくくなる。そして細かいことだけれど重要なことがたくさんあり現場の数をこなしてきたからこそのインフォメーションは非常に興味深かった。

ペアヒチームや潜りチームはCPRがスレッド(ジェットスキーの後ろにある大きなブギーボードのようなもの)の上でも効果があるのか、あるいはボートに連れて行かないとダメなのかという質問もあった。ときにはスレッドすらない時もある、サーフボードの上に乗せてやるべきかなどという質問のあった、全て臨機応変だけれどベストなのは下が硬いところでやること、つまりボートのデッキなどがいいのだが、そこに行くまでの時間が大事なのでできるのであれば、ジェットでボートに行くまでの間も後ろで誰かが胸を押しているといいとか、息をしていないけど背骨や首を追っている心配があったらどうしたらいいかという質問には、背骨が折れていても息をしていなかったら脳に血が行かなくなり、死んでしまったり脳死になるのでそっちの方が大事、まずはCPRなのだそうだ。あと仲間や家族だとどうしても夢中になって押すタイイングが早くなってしまう傾向にあるらしい、早く息をして!と焦るので仕方ない。だいたい1分に100くらいのタイミング、赤ちゃんならもうちょっと早いくらいで押すのがいいそうだ。

助産婦さんたちの赤ちゃんに対するCPRもとても興味深かった。それにしても人形での練習なのに、そんな状況になったらどうしよう、赤ちゃんが青い顔をして、息をしていないときにゆっくり落ち着いて胸を強く押すことができるだろうかと考えたら涙が出てきた。

AED の使い方、または近くだとどこにあるかを知っておくべきだということも言われた。例えばハーバーや学校にはあるのでペアヒチームはハーバーでピックアップして海に持って行こうとかジョークもでてきてたが、必要な時は誰がとっても問題ないらしい。そして使い方は簡単。ただし、CPRをしながらのAEDを使うことのタイミング(AEDでその人がどんな状態かをモニターしてる時には他の人はその人に触ってはいけない)とかが難しそう。

いろんな実際の事例を見ながらライフガードが溺れた人を助けているシーンから、ものが喉に詰まって息ができなくなった人、赤ちゃんが息をしていないときのシーンなどいろんなものを見ながらそれぞれが質問をしたのもとても良かった。

ペアヒチームの中にはウインドで入るために今まであまりトレーニングしていなかったプロたちもいた。例えば大きなセットが来て、一人じゃなくて、二人溺れていたらどうするのかとか、笑っちゃうようなシチュエーションの質問もあったけれど、実はペアヒではそれがあり得るから恐ろしい。

以前カイレニーがフィンで足の甲をざっくり切った時はその場ですぐ応急処置をし、ジェットから直接ヘリが下ろしたはしごで引っ張り上げられてヘリに乗り、ヘリで病院まで運ばれて傷を縫うまでに40分しかかからなかったという。

また以前ローカルチャージャーのDEGEが大腿骨を骨折し、動脈が切れていた時はマリコベイまでジェットで運ぶ間、止血帯だけではそこまで血が止まらないので、仲間が足の傷に手を入れて、指で動脈を抑え続けていたのが素晴らしい判断だったとアンドレアが褒めていた。

怪我の場所によって止血帯が聞くところ効果的なところもあるけれど、そうでないときの処置の方法もいろいろな経験談がでて興味深かった。

それにしてもどんな質問にもそういった状況を全て経験したことがあり、適切な答えを教えてくれるアンドレアには今更ながら本当にすごい人だなと恐れ入る思いだった。そしてそれでも毎回違う状況の中で自分の経験だけでは予想がつかないことが起こるので謙虚にならざるを得ないという気持ちもよく理解できた。

どんなにペアヒで大きな波に乗っても翌日には生死に関わる現場に立たされ、人が死んでいく。そんな中ビッグウエイブに挑戦することだけが人生じゃない、全てでもないということを毎日目の当たりにさせられていることで、地に足がついた生活ができると彼女は言っていた。

6時間の予定が5時間くらいで済んだけれど、途中で居眠りしちゃったらどうしようなんていう心配は吹っ飛んだほどインテンスで緊張感と臨場感に満ちた素晴らしい時間だった。そして誰もが真剣にこのコースの重要さを意識し、本気で学ぼうとしている姿勢にも心を打たれた。


さて、ここで話題に上がったのがローカルサーファーカイポが商品化したいざという時の外傷用の救急セット。カイポはペアヒベテランでこのミーティングにも来ていてユーリソレデードの息子。セイフティークルーとしてもリーダー的存在で誰からも信頼され尊敬されているビッグウエイブサーファー。このセットは特に海の上で必要なものだけを選び、その中でもベストな商品を吟味、ミニマムでありながら使いやすいように揃えたパッケージになっている。カイポは子供の頃からユーリと一緒にペアヒに通い、特にセイフティクルーとして活躍、そんな経験が影響したのか高校を卒業した現在、救急救命士の資格を取るためにアメリカ本土の学校に通っている最中だ。

このトラウマキットの中身のラインナップは素晴らしい上に価格も安いとのことでここでも評判になっていて早速その場で購入した人もいたほど。アンドレアのアドバイスではとにかく海に持っていくものは色々入ってるといざという時にごちゃごちゃになるからできるだけシンプルに、そしてすべての道具やキットを何度も使って自分のものにしておくこと、(その場で使い方など読んでる暇はない、そりゃそうだ)それから一つ一つ個別にジップローックに入れておくと濡れずに済む、ということだった。そこにはアンドレアのトラウマキットも持ってきていて、彼女の方はもう少し本格的なもので中身も多かったけれどすべてのものを彼女自身月開き方を熟知しているものばかりだそうだ。そして一つ一つをジップロックに入れてドライバックに収納してバックパックのようにかついて持っていけるようにしてあった。なるほどー。

というわけで日本でもビッグウエイブやジェットで沖まで行く人、レースやコンテストのオーガナイザーなどこのキットに関心がある人のためにXkai. medical のトラウマキットの中身の紹介。

 1 C.A.T tourniquet(止血バンド), 1 molding splint(成形スプリント), 1 emergency heating blanket(エマージェンシーブランケット), 1 tweezer(とげぬき), 1 trauma shear(外傷バサミ), 2 rolled gauze(ガーゼ), 5 4in. gauze pads(4インチ四方のガーゼパッド), 1 trauma pressure gauze(外傷圧力ガーゼ), 5 single dose packs of ibuprofen(一回分のアイビープロフェン), 5 non Advil, and 5 diphenhydramine.(鎮痛剤、ジフェンヒドラミン5錠ずつ)  5 triple antibiotics one time use packs(一回ぶんの抗生物質), 2 pairs of gloves(手袋2ペア), 1 surgical tape(サージカルテープ), 1 triangle bandage(三角巾), and 1 ace bandage(包帯).

このトレーニングの二日前にホノルアでシャークアタックがあり、常連サーファーがなくなった。そして1週間ほど前にはカイトビーチで板に頭をぶつけて意識不明になり、救助が遅かったら完全になくなっていたという事故もあった。ペアヒも何度かブレイクし、みんな大きな波に巻かれて何があってもおかしくないという実感もあったのだろう。とにかくサーフィンは人生をかけるほど価値のあることだけど命をかけて死んでしまってはいけない。だからこそ仲間に何かがあったときできる限りの事や心の準備ができていることは海に出るものとしての責任なのかもしれないなと最近思うようになった。
いざとなったら何もできないかもしれないけど、こういう人たちが真剣に人の命を守っているんだということが理解でき、感謝できたことだけでも意味があるトレーニングだったと思う。

 アンドレア、ありがとう!


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